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名古屋地方裁判所 平成7年(わ)78号 判決 1995年6月28日

被告人

本店所在地 名古屋市瑞穂区塩入町一七番六号

名称

加賀商事株式会社

代表者

加賀重信

本籍 同市昭和区白金一丁目六一〇番地

住居

同市千種区富士見台三丁目四番地

職業

会社役員

氏名

加賀重信

年令

大正一〇年九月二九日生

検察官

長谷川鉱治

弁護人

山田靖典(主任)

林克行

主文

被告人会社加賀商事株式会社を罰金四五〇〇万円に処する。

被告人加賀重信を懲役二年にする。

被告人加賀重信に対し、この裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人加賀商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、古鉄の卸販売を目的とする資本金七三〇〇万円の株式会社であり、被告人加賀重信は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括しているものである。

被告人加賀は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により、所得の一部を隠匿したうえ、

第一  平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四億四、〇二二万一、一三六円であったにもかかわらず、平成三年二月一八日、名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地の四所在の所轄昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億八、九九〇万九六六三円であり、これに対する法人税額が一億一、一三〇万三、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納付期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億七、一四二万六、三〇〇円と右申告税額との差額六、〇一二万二、九〇〇円を免れ、

第二  平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が六億〇、〇八一万八、六三一円であったにもかかわらず、平成四年二月一九日、前記昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四億六、〇二四万四、六三六円であり、これに対する法人税額が一億六、五八八万八、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納付期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億一、八六〇万四、〇〇〇円と右申告税額との差額五、二七一万五、三〇〇円を免れ、

第三  平成四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四億七、八八六万九、五一九円であったにもかかわらず、平成五年二月一八日、前記昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三億五、八八七万三、二一九円であり、これに対する法人税額が一億二、六八二万三、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納付期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億七、一八二万一、五〇〇円と右申告税額との差額四、四九九万八、五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠)

括弧内の番号は証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。

全部の事実につき

1  被告人の

(1)  公判供述

(2)  検察官調書三通(乙1ないし3)

2  加賀光雄の検察官調書(甲11)

3  査察官調査書四通(甲7ないし10)

4  登記簿謄本(乙5)

第一事実につき

5  証明書(甲4)

6  脱税額計算書(甲1)

第二事実につき

7  証明書(甲5)

8  脱税額計算書(甲2)

第三事実につき

9  証明書(甲6)

10  脱税額計算書(甲3)

(法令の適用)

罰条 法人税法一五九条一項(被告会社については、更に同法一六四条一項、情状にかんがみ、同法一五九条二項を適用)

刑種の選択(被告人加賀関係)

懲役刑

併合罪の処理 平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)四五条前段(被告人加賀につき、更に同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に加重。)(被告会社につき、同法四八条二項)

刑の執行猶予(被告人加賀関係)

改正前の刑法二五条一項

(量刑の理由)

一  被告会社は、三事業年度にわたって合計四億円以上もの多額の所得を秘匿し、一億五〇〇〇万円を超える法人税を不法に免れたものであって、その犯情は甚だ悪く、厳しい非難を免れない。

そのうえ、被告会社は、昭和五八年ころから架空の仕入れを計上して利益額を圧縮するという本件と類似した方法で脱税を図り、昭和六一年にはこれが発覚し、一旦は適正な経理処理をするよう改めたことがあったにもかかわらず、その後反省することなく、より一層巧妙な方法で計画的に本件一連の犯行に及んだものであって、いかにも悪質である。被告会社及び被告人加賀の刑事責任を検討するに当たっては、この点も軽視することが到底できない。

ところで、犯行の動機につき、被告人加賀は、「その健康状態が悪化したことや長男との仲が険悪になったり、更には二人の実弟が相次いで他界したこと等から不安に駆られ、妻子のために少しでも多くの財産を残しておきたかった。」旨弁解する。しかし、動機が被告人加賀の弁解するようなところにあったとしても、それは要するに、脱税により巨額の隠し財産を保有しようと企てたものであって、詰まるところ、飽くことなき私利私欲に出たものというほかなく、なんら酌むべき点はない。

更に、本件一連の犯行が発覚した後の事情をみても、被告会社が経理体制を根本的に改め、本件のごとき重大な違法行為の再発を防止するための十分な措置を講じているのか、少なからぬ疑問を抱かざるを得ない実情にある。

これらの諸事情にかんがみると、被告会社及びその代表者であって自ら積極的に本件一連の犯行を重ねた被告人加賀の刑事責任には重いものがあるというべきである。

二  一方、被告会社は、当然のこととはいえ、本件にかかる三か年の法人税につき修正申告し、本税をはじめ重加算税や延滞税等も全額納付していること、被告人加賀自身は、老齢であることもあって、本件を機に被告会社の代表者から退く意向であること、被告人加賀が本件を反省していること等酌むべき情状も認められる。

三  そこで、これらの情状をも併せ考慮しつつ総合的に検討して、被告会社を罰金四五〇〇万円に、被告人加賀を懲役二年に処するが、被告人加賀に対する懲役刑の執行は、その年令を考え、三年間猶予することとする。

(裁判官 川原誠)

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